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前橋地方裁判所 昭和62年(ヨ)67号 判決 1988年3月11日

申請人

藤原英夫

右代理人弁護士

大塚武一

出牛徹郎

高野典子

角田義一

被申請人

学校法人前橋育英学園

右代表者理事

中村有三

右代理人弁護士

山岡正明

石原栄一

岩崎茂雄

主文

(一)  被申請人が昭和六二年三月三〇日付で申請人に対してなした同月三一日限り懲戒解雇する旨の意思表示の効力を仮に停止する。

(二)  被申請人は申請人に対し、昭和六二年四月から本案判決言渡しに至るまで、毎月二〇日限り、一ケ月四二万五三七六円の割合による金員を仮に支払え。

(三)  申請費用は被申請人の負担とする。

事実

一  当事者の申立

1  申請人の申請の趣旨

主文(一)、(二)同旨

2  申請の趣旨に対する被申請人の答弁

申請人の本件申請をいずれも却下する。

二  当事者の主張

1  申請人の申請の理由

(一)  当事者、その間の雇傭契約及び賃金

(1) 被申請人は、前橋育英高校、前橋育英学園短期大学(以下「育英短大」という。)を経営する学校法人である。

(2) 申請人は、昭和六一年四月一日、被申請人より育英短大英語科教授として雇傭され、同大学の学生に主として英語を教えてきた。

(3) 申請人は、被申請人より、賃金として毎月二〇日支払いの定めで、一ケ月本俸三七万八八〇〇円、研修手当七五七六円、扶養手当一万五〇〇〇円、通勤手当二万四〇〇〇円の計四二万五三七六円の支給を約され、同額の支払いを受けていた。

(二)  解雇

被申請人は、申請人を、昭和六二年三月三〇日付をもって、同月三一日限り懲戒解雇する旨の意思表示をなし、同意思表示はその頃申請人に到達した(以下「本件解雇」という。)。

(三)  解雇無効

(1) 解雇事由不存在

ア 被申請人の営む育英短大の職員を規律するものとして前橋育英学園短期大学就業規則(以下「就業規則」という。)があり、別紙のとおり、その第七章に懲戒に関する定めがある。

イ 申請人には就業規則に定める懲戒事由は存在しない。

(2) 手続的瑕疵と教授会自治の侵害

ア 学校教育法五九条は、「<1>大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。<2>教授会の組織には、助教授その他の職員を加えることができる。」と規定しているが、これは、大学の管理・運営に関する重要事項の決定に教授会の議を経させることにより大学の自治を保障しようとしたものであり、この趣旨に鑑みれば、右規定に違反する行為は無効というべく、教員人事は大学の自治の核心をなすといえ、右重要事項に該ることが明らかである。

イ 育英短大には、別紙のとおり前橋育英学園短期大学学則(以下「学則」という。)があり、その四五条で教授会の構成を規定しているが、同短大においては、別紙前橋育英学園短期大学教授会規定に見られるとおり学長、教授、助教授、講師をもって教授会を組織することが確立した慣行であり、更に、右学則四九条では教員の任免は教授会に諮問することとされている。

ウ 本件解雇に際して学長は申請人を除く各教授の意見を個別に聴取したものの、助教授等も構成員とする教授会の議を経ず、また、申請人の弁明を全く聴取していない。

各教授の意見を個別に聴取したとしても、教授会の議を経たことにはならない。

エ 本件解雇事由として被申請人の主張するもののいくつかは、教授会の構成員である申請人の教授会での発言そのものをとりあげたもので、教授会における言論の自由を封殺するものであり、教授会自治を侵害する。

オ 以上のとおりであるから、本件解雇はその手続要件を満たしておらず、憲法二三条、学校教育法五九条に反し、無効である。

(3) 不当労働行為

ア 被申請人代表者中村有三(以下「中村理事長」という。)は、従前より被申請人学園を専制支配し、教職員人事をその道具としてきた。

イ 育英短大の教授に就任した申請人は、教授としての責任と良心に基づき、教授会や各種委員会で積極的に発言してきたが、中村理事長はこれを嫌悪し、申請人に退職を強要するようになった。

ウ 申請人は労働組合の必要性を痛感していた他の教職員とともに、自ら中軸となり、昭和六一年一一月二七日、前橋育英短期大学教職員組合(以下「短大労組」という。)を結成し、中村理事長の不正な専制支配を打破するべく、<1>真下教授に対する不当処分、<2>文部省補助金の不正流用、<3>入試合格者決定における教授会無視等の問題につき、短大労組の中心的メンバーとしてとりくみ、昭和六二年三月二四日には、第二代の短大労組執行委員長に選出され、組合活動を強化しようとしていた矢先に、本件解雇がなされた。

エ 本件解雇は、申請人の労働組合活動を嫌悪し、これを排除することにより組合活動を停止させ、組合を破壊することを狙ったもので、労働組合法七条一項一号、三号に該当する不当労働行為であり、無効である。

(4) 解雇権乱用

本件解雇は、懲戒理由がないのに、中村理事長が、被申請人学園の不正な専制支配を維持するためになした、同人の恣意によるもので、解雇権を乱用するものとして無効である。

(四)  保全の必要性

申請人は、従前、右(一)(3)のとおり被申請人より賃金の支給を受け、その手取りは約三五万円であったが、本件解雇により、東京工芸大学等からの月収約一〇万円のみとなり、経済的破綻に迫られ、また、研究・教育活動の場を奪われて学者として研究生活上非常な損失を受けている。

(五)  まとめ

よって、申請人は、本件解雇の意思表示の効力の仮の停止と本件解雇の翌月より本案判決言渡しに至るまでの間の従前の賃金の仮払いを求める。

2  申請の理由に対する被申請人の認否

(一)  申請の理由(一)(当事者、その間の雇傭契約及び賃金)の事実は認める。

(二)  同(二)(解雇)の事実も認める。

(三)  同(三)(解雇無効)

(1) 同(1)(解雇事由不存在)ア(就業規則)の事実は認め、同イ(懲戒事由不存在)の事実は否認する。後記のとおり懲戒事由は存在する。

(2) 同(2)(手続的瑕疵と教授会自治の侵害)

ア 同ア(教授会審議事項)の内学校教育法の規定は認めるが、その余は争う。

学校教育法五九条の重要事項には、同法施行規則六七条に定める学生の入・退学、卒業等は含まれるが、教員の選考等は、国公立大学については教育公務員特例法により右に含まれるものの、私立大学については、校風や建学の精神等各大学の自主性が尊重されるところから、各大学の自治規範に委ねられている。

育英短大の内規には、教授解任につき教授会の審議を有効要件とした規定はなく、学則四九条により教授会の意見を尊重しつつも、理事会の承認を条件として学長が決定することとされている。

イ 同イ(教授会)の内、学則の規定は認めるが、その余は否認する。助教授等は教授会の必須メンバーではなく、学長が必要と認めたときのみ参加しうるものであり、特に育英短大においては、人事問題については教授のみで構成する人事委員会に諮問する旨定められていた。

ウ 同ウ(教授会の審議、本人の弁明)の事実中、学長が申請人を除く各教授の意見を個別に聴取して理事会への本件解雇の答申をなしたこと、右に際し助教授等も構成員とする教授会の議を経ていないことは認め、その余の事実は否認する。

育英短大学長針塚正樹(以下「針塚学長」という。)は、本件解雇について、申請人を除く各教授に趣旨を十分説明し、個別に意見を聴取した。申請人が常日頃より教授会の発言を独占し、議事を混乱に陥れてきたため、教授会を開催することは不可能で、個別に意見を聴取せざるをえなかったものであり、実質的には教授会の議を経たと言える。

また、申請人の弁明については、申請人が教授会を徒らに混乱に陥れる等する度に、針塚学長らが申請人の意見を十分聴取している。

エ 同エ(解雇事由としての教授会の発言)の事実中、被申請人が解雇事由として申請人の教授会での発言をとりあげたことは認める。しかし、右発言は、他の教授らに対する罵詈雑言で、議事妨害以外の何ものでもなく、言論の自由を封殺してきたのは申請人である。

オ 同オ(手続的瑕疵、憲法、学校教育法違反)は争う。

(3) 同(3)(不当労働行為)

ア 同ア(中村理事長の専制支配)の事実は否認する。

イ 同イ(教授会での発言、中村理事長の嫌悪)の事実中、申請人が教授会等で発言してきたことは認め、その余は否認する。右発言内容は前記のとおりである。

ウ 同ウ(組合結成とその活動、委員長)の事実中解雇については認めるが、その余は不知。

エ 同エ(不当労働行為)は争う。

(4) 同(4)(解雇権乱用)の事実は否認する。

(四)  同(四)(保全の必要性)の事実中、申請人の従前の月収については認めるがその余は否認する。

3  被申請人の主張

本件解雇の理由は次のとおりであり、いずれも就業規則三三条一項各号に該当し、同三四条に則って解雇されたものである。

(一)  米国研修阻止

育英短大英語科(一年)の米国研修は、同英語科設置以来の重要なカリキュラムであるが、申請人は学生の受入れ先機関であるCHIが米国内で訴訟をされた事実を倒産したと歪曲し、昭和六二年二~三月頃予定されていた右研修を阻止し、その結果春季休業日を著しく早める等授業計画の大巾な変更を余儀なくさせ、学生の学力を抵下させた。

右は就業規則三三条一項一号、二号に該当する(以下本項においては条、項を省略し、単に「規則一号」等という。)。

(二)  リベート発言

申請人は、米国研修の旅行業者選定問題に関し、昭和六一年九月一八日開催の教授会の席上、「理事長は旅行業者から高額な金品を受け取っている。」等と理事長ひいては学園の名誉を傷つける発言をなした。

右は規則五号に該当する。

(三)  会議の議事混乱、罵詈雑言

申請人は、教授会、各種委員会等で発言を独占し、議長の指示に従わず、針塚学長に「担架に乗ってでもアメリカに行って責任をとれ。」、小倉教授等に「グズ」等と罵詈雑言をあびせ、学生指導委員会の会議中他の部屋から数回電話して、受話器をとらせて切る等会議運営を妨害した。

右は規則二号、五号に該当する。

(四)  担任の職務放棄

申請人は、昭和六一年九月、死亡した柳平助教授より一年B組の担任を承継したが、担任としての学生指導をせず、学生田谷恵のいじめ問題について、その調査を拒否し、責任を他に転嫁する等した。

右は規則三号に該当する。

(五)  人事委員会の審議阻止等

申請人は、自らが推薦する者を教員として採用させたいがために、人事委員会において再三にわたって、正当な根拠もないのに、教員採用の件につき審議阻止の発言を行い、採用人事を困難ならしめた。

右は規則二号、六号に該当する。

(六)  非常識行為

申請人は、ノーネクタイ、ジャンバー、ジーパン姿で勤務したばかりか、地方労働委員会の斡旋の場にも同様の身なりで出席し、教務委員会ではアンパンを食べながら議長をつとめ、病休中で、家族も病身である針塚学長宅に赴き、強引に教授会開催を迫る等した。

右は、規則二号、四号、五号に該当する。

(七)  文部省への通報等

申請人は、昭和六一年七月頃より学内で処理すべき事項について、しばしば文部省に匿名で通報し、教授会等において、「文部省の密命を帯びて本学に来ている。」等の虚偽の発言をし、学園内の人心を惑わした。

右は、規則二号、三号、四号、五号に該当する。

4  被申請人の主張についての申請人の認否

(一)  被申請人の主張冒頭の部分は争う。

(二)  同(一)(米国研修阻止)の事実は否認する。米国研修は格別重要なカリキュラムというわけではない。CHIは連邦破産法一一条の申請を受け、これは通常、「倒産」と表現されており、この問題については育英短大石川事務局次長が管理者会議の場で問題提起したものである。申請人は、学生に対して責任ある米国研修を実施できるよう意見を述べたにすぎない。米国研修が延期されたのは被申請人の都合であった。英語科の春季休業日は予定どおり実施され、保育学科につき英語科と同一の試験日が好ましいとの教務委員会の決定により試験日と春季休業日が繰り上がったもので、申請人の関知するところではなく、英語科の授業計画に大巾の変更がなされたこともない。

(三)  同(二)(リベート発言)の事実も否認する。かねて中村理事長と業者との癒着に関する黒い噂は育英短大で公然と語られており、昭和六〇年三月一七日号の週間サンデージャーナル誌上に文部省の研究助成費の使途が不明である等の記事が掲載され、同誌記者からISAのリベート問題につき取材がなされたこともある。

(四)  同(三)(会議の議事混乱、罵詈雑言)の事実も否認する。申請人が教授会等の発言を独占し、議長の指示に従わなかったことのないことは、教授会確認事項の記載によって明らかである。針塚学長に対する発言は、CHIの倒産により問題発生の予想される研修について、病気がちとはいえ責任者の学長が担架に乗ってでも参加する位の気持であってほしい旨を述べたものであり、小倉教授については、激しい言葉のやりとりはあったが、新年度のカリキュラム等の決定の遅れを憂えてのもので、直後に双方で和解済みのものである。

(五)  同(四)(担任の職務放棄)の事実中、申請人が一年B組の担任を承継したことは認め、その余は否認する。田谷問題は、真下教授処分徹回運動から労働組合結成へと動いていた時期に、学生間に対立を持ち込み、学生と申請人らを対立させ、組合結成を阻止しようとした策謀にすぎない。申請人は柳平助教授の急死に伴う担任等の事務を引き受け、これを処理してきたもので職務放棄などない。

(六)  同(五)(人事委員会の審議阻止等)の事実も否認する。かねて英語科内においては、採用人事につき複数の候補者の中から、科内の合意を得ながら適任者を求めるべきであることを申し合わせており、針塚学長もこれを尊重して、申請人に対し、候補者探しを依頼し、申請人も数人の候補者を探して推薦した。しかし、針塚学長は右経緯を無視し、中村理事長の意を受けて、申請人推薦の者をとりあげず、英語科の合意もないまま、不適任な人物を候補者として提案したため、人事委員会の多数の教授が反対したもので、申請人が根拠もなく審議阻止の発言をしたことなどない。

(七)  同(六)(非常識行為)の事実中、申請人が地労委の斡旋の場に被申請人主張の身なりで出席したこと及び針塚学長宅へ赴いたことは認め、その余の事実は否認する。アンパンは委員会開催時間前のことであり、針塚学長宅を訪ねたのは、申請人外四名の教員であり、学長の病気に配慮しながら教授会の開催のお願いに訪ねたものである。

(八)  同(七)(文部省への通報等)の事実も否認する。育英短大は、虚偽申請事件の発生等で文部省の特別指導監督下におかれ、匿名での通報の必要等は全くなかった。

三  疎明関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  申請の理由(一)(当事者、その間の雇傭契約及び賃金)、同(二)(解雇)の各事実は当事者間に争いない。

二  そこで、本件解雇の効力に関し、まず、その手続の適否(申請の理由(三)(2))について判断する。

1  (証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実を一応認めることができ、右認定に反する部分につき証人羽鳥保太郎、同針塚正樹及び被申請人代表者の各供述はこれを採用しない。

(一)  被申請人及び育英短大においては、別紙記載のとおり、次の内容の各定めがある(学則及び就業規則については当事者間に争いない。)。

(1) 学校法人前橋育英学園寄付行為(<証拠略>)

被申請人の業務決定は理事会で行う。

(2) 就業規則(<証拠略>)

職員の懲戒等は所属長の内申に基づき人事委員会(以下被申請人の理事長の諮問機関たる人事委員会を「学園人事委員会」という。)に諮って、任命権者である理事長が決定する。

右懲戒の事由、懲戒解雇を含む懲戒の種類等。

(3) 人事委員会に関する規定(<証拠略>)

学園人事委員会についての細目

(4) 学則(<証拠略>)

教授会は教授をもって構成し、助教授等を加えることができる。

教員の任免は教授会に諮問し、理事会の承認を得る。

(5) 前橋育英学園短期大学教授会規定(<証拠略>、以下「教授会規定」という。)

教授会は専任の教授、助教授、講師等をもって構成する。

教員の任免は教授会に諮問し、理事会の承認を得る。

(6) 前橋育英学園短期大学教員の採用・昇任に関する規定(<証拠略>、以下「教員採用規定」という。)

教員の採用・昇任については教授のみで構成する教授会を招集する。

(二)  育英短大において、後記(三)の場合を除き、教授会は教授のみでなく、助教授及び講師も加えて開催されるのが慣例であった。

(三)  育英短大においては、教員の採用・昇任に関しては、学長が教授のみで組織された「人事委員会」と称する機関(以下「大学人事委員会」という。)に諮って、その結論を理事会に内申し、理事会では、理事長の諮問機関たる学園人事委員会(理事長と学識経験者等で理事長の委嘱を受けた者により構成される。)に諮問してその答申を得て審議し、理事長が決定していた。

(四)  育英短大において、従前、教員の任意退職等本人の意思に基づく退職の例はあり、それぞれ大学人事委員会に報告され後任人事の検討がなされていたが、解雇等本人の意思に基づかない退職の事例はなかった。

2  証人羽島保太郎、同針塚正樹及び被申請人代表者は、(証拠略)を援用する等して、教員採用規定の細則としての「前橋育英学園短期大学人事委員会規則」(以下「人事委員会規則」という。)の定めがある旨供述する。

しかし、(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、人事委員会規則は、本件解雇が問題化するまで育英短大の教職員の一般に知らされたことはなく、昭和五九年当時被申請人において作成した育英短大規定綴の中にも納められておらず、更に昭和六〇年から六一年にかけて、大学人事委員会の細則を定めることが検討されたものの成立には至らなかったことが一応認められ、右認定に反する部分につき被申請人代表者の供述は採用しない。

右認定の事実に照して案ずれば、前記証人羽鳥保太郎等の供述のみでは、人事委員会規則の存在を一応も認めるに至らない。

3  そこで、被申請人において要求されている懲戒解雇手続を検討する。

(一)  右1に認定の諸規定の定め及び諸事実を総合すれば、被申請人が育英短大の教員を懲戒解雇するには、就業規則三三条所定の懲戒事由が存したとしても、学長が右懲戒につきこれを教授会に諮問し、その結論を所属長として理事会に内申し、理事会においては学園人事委員会に諮問したうえでこれを審議し、理事長においてこれを決定することを要し、右諮問を受ける教授会は、少くとも学長、専任の教授、助教授、講師をもって構成されなければならないものと考えられる。

(二)  被申請人は、解雇等を含む人事問題については教授のみで構成する大学人事委員会に諮問すれば足り、助教授等を構成員とする教授会に諮問することは要求されていない旨主張し、証人羽鳥保太郎、同針塚正樹及び被申請人代表者(<証拠略>)はこれに沿う供述をするところ、右1に認定したとおり、確かに、教職員の採用・昇任に関しては、学長は教授のみで構成される教授会(大学人事委員会)に諮問することとされているが、解雇についてはその定めも慣行も存在していないものであり、右証人羽鳥保太郎らの供述は採用の限りでない。

なお、被申請人主張の人事委員会規則の存在が認定できても、これも教員の採用・昇任に関するもので、右結論を左右するものではない。

また、前記学則、教授会規定及び教員採用規定において、教授会の構成につきその定め方が異なるが、右各規定の趣旨及び文言によれば、学則において教授会の必須の構成員を教授とし、助教授等は必要と認めたときに加えることができるとしたのを受けて、教員採用規定において教員の採用・昇任については教授のみを構成員として審議し、その余については教授会規定において、専任の助教授等も加えて審議するものとし、教授会の構成員につき要件の具体化を図ったものと解するのが相当であり、前記認定のとおり、育英短大においてはそのように運用されていたものである。

4  これを本件解雇につき見るに、学長が申請人を除く各教授の意見を個別に聴取して理事会への内申をなしたもので、助教授等を構成員とする教授会の審議を経ていないことは当事者間に争いなく、この点の手続違背のあることは明らかである。

5  そこで、教授会の議を経ていない本件解雇の効力につき更に検討する。

憲法二三条に保障する学問の自由は、その制度的基盤として大学の自治を包含するものであり、大学の自治の一つの主要な柱が教授会の自治に存することは学校教育法五九条等の規定より明白である。

育英短大における前記諸規定中解雇に際して教授会の審議を要求した部分は、右大学の自治の保障を具体化したものであって、この手続を怠った瑕疵を軽視することはできず、個々の教授個人の意見を聴取したとしても、これが、会議体として要求されている教授会でないこと及び構成員である専任の助教授、助手の意見を反映していないことの二点において、右教授会の審議に代替するものとは考えられない。

被申請人は、教授会を開催したときは、申請人が議事を混乱させるおそれがあり、開催不能であった旨主張するが、懲戒処分を審議する際に被懲戒者には弁明の機会を与えれば足り、審議に加える必要のないことは衆議院規則二三九条、参議院規則二四〇条等に見られるように会議体一般の扱いであり、被申請人のこの点の主張は理由がなく、かえって(証拠略)、証人羽鳥保太郎及び同針塚正樹の各証言並びに被申請人代表者尋問の結果によれば、学長において教授会の審議を経ず個別に教授の意見を求めたのは、教授会を開いたときは、申請人の解雇に反対する教授の発言の影響で本件解雇の決議を得られないおそれがあると考えたことが、一つの主要な原因であるものと一応認められる。

以上を総合考慮すれば、本件解雇は、他の諸点を検討するまでもなく、その効力を否定せざるをえない。

三  次に保全の必要性(申請の理由(四))について判断する。

申請人が本件解雇前被申請人より一ケ月四二万五三七六円(手取り約三五万円)の支給を約され、同額の支払いを受けていたことは当事者間に争いなく、その余の申請の理由(四)の事実は、(証拠略)によりこれを一応認めることができ、右認定に反する部分につき(証拠略)は採用できない。

四  結論

以上のとおりであるから、本件仮処分申請はすべて理由があるのでこれを認容し、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田村洋三)

学校法人前橋育英学園寄付行為

……(中略)……

(理事会)

第七条 この法人の業務決定は、理事をもって組織する理事会によって行う。

……(後略)

前橋育英学園短期大学就業規則

……(中略)……

第三章 人事

(人事委員会)

第一七条 職員の採用・解雇および異動・懲戒・表彰等は所属長の内申に基き、人事委員会に諮ってその意見を聴取して任命権者が決定する。

2 前項の任命権者は学園の理事長とする。

3 人事委員会の規定は別に定める。

……(中略)……

第七章 懲戒

(懲戒事由)

第三三条 職員が次の各号の一に該当する場合は懲戒処分を行う。

(一) 学園の教育方針に違背する行為のあった場合。

(二) 学園の秩序を乱し、または正当な理由なく上司の指示に従わなかった場合。

(三) 職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合。

(四) 服務規律に違反した場合。

(五) 職員としての品位を失い、学園の名誉を損する非行のあった場合。

(六) その他前各号に準ずる不都合の行為のあった場合。

(懲戒の種類及び方法)

第三四条 懲戒の処分は、譴責、減給、懲戒休職、懲戒解雇の四種類とし、非行の軽重、当該職員の情状等の諸点を勘案して、処分を決定する。

(一) 譴責は始末書をとり、将来を戒める。

(二) 減給は始末書をとり、本俸を減額する。但し、その総額において総収入の一〇分の一を超えないものとする。

(三) 懲戒休職は九〇日以内の期間を定めて休職を命じ、その職務に従事させない。

(四) 懲戒解雇はその責に帰すべき事由を明示して解雇する。

2 懲戒の原因となる行為が軽微であるか、特に情状酌量の余地があるか、若しくは改俊の情が明らかに認められる場合は、懲戒を免じ訓戒にとどめることがある。

3 その他懲戒に関する事項は別に定める。

……(後略)……

人事委員会に関する規定

(目的)

第一条 この規定は、就業規則第四三条に基き学園が経営する学校の人事管理の適正により運営の円滑をはかり、その目的を達成するため、前橋育英学園人事委員会(以下「委員会」という)の設置とその運営に必要な事項を定めることを目的とする。

(所掌事項)

第二条 委員会は、次にあげる事項について理事長の諮問に答えるものとする。

(一) 職員の任用に関すること。

(二) 職員の解雇および異動に関すること。

(三) 職員の表彰および懲戒に関すること。

……(後略)……

前橋育英学園短期大学学則

……(中略)……

第九章 教授会

(教授会)

第四四条 本学に教授会をおく。

(教授会の構成)

第四五条 教授会は、学長および教授をもって構成する。

2 前項の規定にかかわらず、学長が必要と認めたときは、教授会に助教授、講師、その他の職員を加えることができる。

(教授会の招集)

第四六条 学長は教授会を招集し、その議長となる。ただし、学長に事故あるときは、あらかじめ学長が指名したものが議長となる。

(教授会の開催)

第四七条 教授会は、構成員の三分の二以上の出席がなければ開催することはできない。

(審議事項)

第四八条 教授会は、学長の諮問に応じ、次の各号にかかげる事項を審議する。

(1) 教育課程および授業に関すること。

(2) 授業科目および実習の成績認定に関すること。

(3) 学生の入学、退学、転学、休学、除籍および卒業に関すること。

(4) 学生の厚生、補導および賞罰に関すること。

(5) 学則その他学内諸規定に関すること。

(6) 教員の研究等に関すること。

(7) その他、教育研究上必要と思われる重要事項に関すること。

(教員の任免)

第四九条 教員の任免は、学長が教授会に諮問し、理事会の承認を得なければならない。

……(後略)……

前橋育英学園短期大学教授会規定

第一条 この規定は、前橋育英学園短期大学学則第四四条に基づき前橋育英学園短期大学教授会(以下「教授会」という)の組織および運営について定めるものとする。

第二条 教授会は、学長ならびに専任の教授、助教授、講師、その他学長が必要と認める職員をもって構成する。

……(中略)……

第八条 教員の任免および昇任に関する事項は、学長が教授会に諮問し、理事会の承認を得なければならない。

……(後略)……

前橋育英学園短期大学教員の採用・昇任に関する規程

第一条 前橋育英学園短期大学(以下「本学」という。)に勤務する教職の採用・昇任に関する選考はこの規定の定めるところによる。

第二条 学長は、教員の採用・昇任に関する選考の必要を認めたとき、教授のみで構成する教授会を招集する。

……(後略)……

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